第8章 彼岸花
修学旅行が終わってから数日後の放課後。
ひまりは1年生の教室を覗きに来ていた。
丁度、鞄を持って下校しようとしていた潑春と紅葉がひまりの存在に気付き声をかける。
「わー!ひまりだーっ!オミヤゲのクッキー美味しかったよー!ありがとう!」
「どうしたの…珍しい…」
「あのね…ちょっと…春にお願いが…」
緊張した面持ちでモジモジとするひまりのいつもと違う雰囲気に、潑春と紅葉は顔を見合わせる。
「あのね…私、覚悟決めたの!初めてだし痛いの苦手だし…けど春って見てわかる通り経験豊富じゃん!?絶対上手いじゃん!?だから…だから春にしてほしいんだけど?!」
ひまりの言葉にピシリッと固まる周りの生徒たち。
「経験豊富!?」「上手い!?」「え、あの2人ってそういう関係…?」等と生徒たちは狼狽ているが、潑春と紅葉は特に驚くこともなく狼狽えることもなかった。
「まぁ…ひまりのことだから…百発百中意味は違うだろうけど…もう一回同じ台詞…言って?…浸れるから」
「ダメだよーハル。ひまりが変なウワサされちゃうでしょ?」
「…あと一回だけ…」
「ねぇ春、お願いできる?正直怖いんだけど…頑張るから」
「……良き」
「シュゴが抜けてるよーひまりー」
彼らの会話を耳を大きくして聞いていた周りの生徒が、その後に話していた会話内容の真相を知った途端につまらない…と言う顔で蜘蛛の子を散らすように去っていった。
「まぁ…とりあえず、ウチ来たら?」
「あざーーっす!お邪魔しにいっきまーーす!」
「ユキ達には言ってあるの?」
「あ!!言ってない!!」
ハッとして焦りだすひまりの頭にポンと手を乗せた春が「俺が先生に言っとく」とポケットから取り出したスマホで電話をかけはじめた。
「うん…ひまりが初めてで痛そうだし怖いけど…俺にして欲しいって…。このまま…由希達に伝えてて」
電話の相手は紫呉だったのだろう。その会話を聞いていた紅葉が、電話を切ったことを確認してから「そんなこと言ってアオッテ…ボク知らないよー」と潑春に口を尖らせて言うが、素知らぬ顔をしてポケットにスマホを戻す。
当のひまりは緊張感とワクワク感で胸を躍らせていた。