第6章 執着
窓から差し込む日差しが瞼を刺激して朝を告げる。
まだまだ寝ていたかったひまりは瞼を開けることなく、再び夢の世界へと旅立とうとしていた。
「ぶっころぉおす!!!!」
あともう少しで…とふわふわし始めた所で、斜め前にある夾の部屋からどでかい怒鳴り声が聞こえ、現実に引き戻される。
瞼を薄く開いて重ダルい体を起こし、ベッドに座ったままボーっとした頭で思考を巡らせる。
夾はこんな朝っぱらから何をそんなに怒ってるんだろうか…。
その原因を考えようとするが、寝起きの脳は簡単には働いてくれない。
むしろまた夢の中へと引きずり込もうとしているのか、自然と瞼が閉じてしまう。
「寄るな!触るな!今すぐ出て行けド変態!!」
再度聞こえた怒鳴り声に落ちかけていた意識をハッと取り戻した。
考えるより見たほうが早い。
ひまりはベッドから立ち上がり、フラフラと歩きながらドアに手を掛け廊下へと出る。
「やあ!今日も早起きご苦労だねひまり!まだ蝉時雨が降り注がない早朝に目覚めるとは良き妻だね!」
…由希朝からテンションたっけぇな…。
気を抜けば夢の世界へ逆戻りしてしまいそうなのを必死で繋ぎ止めながら、半分以下しか開かない瞼で夾の部屋の前の彼に目をやった。
そして見た目は由希と瓜二つな綾女を、ひまりは完全に由希と勘違いしている。
「ばっか!お前まだ部屋にいろって!」
その後ろに立つ夾が焦ったような口調で声を掛けたのとほぼ同時にひまりは眠気に耐えきれず、目の前の壁に額を激突させて瞼を閉じた。
「おや?ひまりは実はお寝坊さんだったのかい?由希と一緒だね!夫婦は似ると言うからね!これはまさに新婚さんいらっしゃ」
「おまっ!近付くなっ…」
歩き出す綾女に怒りと焦りを浮かべた表情で止めようとした夾だったが、目の前の扉が開いたことでその手を止める。
ガンッッ
朝からハイテンションな綾女がひまりに近寄ろうとした時、綾女とひまりの間の壁に蹴りを入れて近付かせないようにしたのは、いつの間にか起きてきていた由希だった。
その大きな音に飛び起きたひまりが、後ろにコケないように背中を支える配慮もしっかりしている所を見ると、今日の由希の寝起きは普段では想像出来ない程に冴えているようだ。