第21章 秘密の部屋
「え」
「いいから、ほら、貸して?」
トムはそう言って、優しく笑った
その笑顔がさっきとは違い、柔らかい穏やかなもので
幸福に溢れた笑みだった
なぜか分からないが、その笑みが演技ではないと感じた
(あれ?
前にもこんな事なかったっけ?)
おずおずと左手を差し出す
トムは手を添えて、ゴーント家の指輪を薬指にはめた
「うん、よく似合ってる」
(あれ?)
『でも、お母さんのものなんでしょ?』
『大丈夫だよ、君のために持ってきたから、ほら』
『うん、よく似合ってる』
『っありがとう』
チュ
『えぇ!?トム!?』
『私、トム・リドルは君の傍に居続ける事を誓います』
『…………』
『ふふ、誓いの言葉だよ、こうやって指輪にキスするんだ』
『んもぅ!』
今のは何だ?
(どうして浮かんできたの?)
記憶?
何だろう
何かザワザワする
「…………………」
「私、トム・リドルは」
しばらく黙っていると、トムがそう言った
「君、ヴィオラ・マリエレンダを、片時も離さず、守り続ける事を誓います」
真摯に見つめられ、そう言われた
思わず目を見開いてしまう
それは、結婚式の誓いの言葉
なぜ今それを言うのか
「ヴィー」
名前を呼ばれる
しかも愛称で
そのままトムはヴィオラの髪に触れた
長いピンクブラウンの髪を耳にかけ、頬に触れながら、近付いてきた
「!」
温かいものが唇に触れた
それは、やんわりと軽く触れるだけ
でも、息が出来なかった
息をしてしまえば、ダメな気がしたから
口ずけを、妨げてしまえばダメな気がしたから
「…っん」
目を瞑り、声を上げてしまう
トムも息が出来ていないと察知してくれたのか、ゆっくりと唇を離してくれた
目を開いてトムを見る
彼は幸せそうに優しく笑っていた
思わず顔を赤らめる
唇を手で隠し、俯いて赤くなる
(わ、私のファーストキス…)
これは有りか?
ファーストキスとして数えていいのか?
相手は日記だ
人間じゃないのに数えてもOKなのか?
赤くなりながら色んなものが頭に巡る
パンクしそうだ