第12章 賢者の石
「ハリー、10年前、なぜヴォルデモートが君に手を出せなかったか知っているかね?」
声がする
優しい落ち着いた声
(ああ、この声は……)
ダンブルドアだ
目を開けてダンブルドアを見ようとする
でも目は開かない
瞼は開かない
(あれ?これもしかして夢なの?)
眠っているのか起きているのか分からない状態
夢なんじゃないかと思ったが、夢にしてはダンブルドアの声がはっきりと聞こえる
「君の、お母さんのおかげじゃ
命と引き換えに君を守った、それが君に印を残した」
『犠牲の印』
それは、自らの命と引き換えに「死の呪文」すら無効化する魔法
リリーの、ハリーへの愛情が、無意識にその魔法を発動させた
そしてそれが、ハリーの額に刻まれたのだ
まるで呪いのように
母が死んだ証のように
でも、その印は愛情の証だとも思う
愛してくれたから、ハリーは生き残ることが出来たのだから
「どんな印を?」
「愛じゃよハリー、愛じゃ」
『愛』
それがハリーを守った
究極の魔法だ
(お父さんとお母さんは、私を愛してくれてたのかな)
今はもう居ない、「麗乃」の両親を思い出す
優しかった父と母
でも、もうその顔を覚えてはいなかった
10年以上の月日が経って、記憶が薄れてしまった
(……………………)
ああ、思い出した
あの時、両親は交通事故で亡くなった
「麗乃」を守って、代わりに死んでしまったのだ
あの時、確か病院に行く途中だったと思う
なぜかは分からない
お父さんは「内緒だ」と言って教えてくれなかった
タクシーに乗って向かっていた
信号を渡って、道を走って
でも、曲がり角からトラックが向かってきた
無人のトラックが、凄まじい速さで向かってきていて
ぶつかって大事故に巻き込まれた
あの時、自分は死ななかった
母が守ってくれていたのだ
ぶつかる直前、お母さんがお腹に抱えて自分を背にして守ってくれた
母がクッション代わりになって私は助かった
でも、母は助からなかった
背中に鉄杭が刺さって手遅れになってしまった