第3章 無惨様、地下鉄に乗る
「ところで……紡希とやら。貴様は記憶がはっきりと残っているようだな」
「ええ? まあ、そうみたいですね?」
「……まあ、さして問題にはならんか。そんなことより、家は何処だ」
「えっとー……ここから三駅かかります。なので、歩いて駅に戻って、それから地下鉄に乗りますね」
「地下鉄?」
「あ、電車……いや、汽車のことです」
「ふむ、汽車か……」
公園を後にして、歩き始めた。この人は、何が何でも家まで着いてくるつもりなのだろう。
それにしても、素直に案内しちゃってる私、絶対にどうかしてる。今日会ったばかりの怪しい男の人を家に上げるなんて正気じゃないけど、何故か逆らうことができないのだ。
「あ、もしかして、汽車見たことありません?」
「あるに決まっている。馬鹿にするな」
「馬鹿になんかしてませんよ」
「いいや。見下すような物言いをした」
「痛っ……!」
無惨様の爪が、私の二の腕にギチギチと食い込む。人通りが増えてきてからは体を切り飛ばされることはなくなったけど、代わりにこういう地味な嫌がらせをしてくるようになった。
(はぁ……癇癪持ちの暴力男。DVじゃん。外だから、ドメスティックじゃないけどさ)
「でぃーぶいとはなんだ」
「うぇえっ!?」
「言い忘れていたが、私はお前の思考が読める。下らんことを考えても、全て筒抜けだからな」
「チートかよ!」
「ちーととはなんだ」
「ジェネレーションギャップ、すごすぎ!」
「日本語を喋れ。それから私は癇癪持ちではない」
「うぎゃあああ!」
ほらそうやって、すぐにキレる。癇癪持ちじゃん、間違いなく!
「まったく……あれだけ血を与えたのに、お前の態度は人間の時とまるで変わらん。一体どうなっているんだ?」
「知らないですよ、そんなの。100年も眠ってる間に無惨様が弱体化したんじゃないですか?」
「…………」
「どうしました?」