第2章 令和最初の鬼
「ぎゃあああ! くび、首がっ……! 死ぬ、死んじゃいますよっ! 何てことをっ……」
「全く……理解が遅い。記憶も与えたはずなのだが」
「死ぬ、死ぬぅうう……! 死んじゃうよぉおおお……って、あれ?」
私、首が飛んだのに、死んでない。
……え? 何これ何これ、どうなってんの?
男はおもむろに私の髪の毛を引っ掴む。それから体を抱き上げると……首を、在るべき場所に戻した。
「鬼はこの程度では死なん」
一瞬のうちに、首と体はあっさり繋がってしまった。
「……まじか」
「ふん……再生能力だけは上弦に匹敵するようだな。……まあ、あれだけ血を分ければ当然のことか?」
「……???」
本当に、どうしたらいいんだろう。まるで理解が追い付かない。鬼に、なった? 私が、鬼になったって……?
「あはは、ゆめかな。たぶん、わたしは夢の中にいるんだ」
頭がパンク寸前になった私は、思考を停止することにした。
すっと立ち上がって、首が飛んだ時に落ちたバッグとスマホを拾い上げる。それから、男に背を向けてふらふらと歩き始めた。
「どこへ行く」
「家に帰るんですけど」
「なるほど。では、そこを当面の隠れ家――いや、拠点としよう」
「へっ?」
「案内しろ」
「ちょっと、拠点って……わたしの家を奪うつもりなんですか!?」
「貴様の家は、これから私の家だ。貴様は其処で、私にこの時代の情報を提供しろ」
「なっ……!?」
「そうでないと、お前ごときをわざわざ生かす意味がないだろう?」
……なんだこの人、完全にやばい人じゃん!
ストーカーか何かだったってこと?
「い、いきなり一緒になんか、住めるわけないですよ。それじゃさよならっ!」
私はそれだけ言うと、全速力で駆け出していた――
のだが。
一秒も経たないうちに、派手にすっ転んだ。今度は右脚が弾き飛ばされたようだ。