第14章 愛していると言えばいいのか?
「喜ぶに、決まってるじゃないですか……。だってあたしは、心を読めないんです。いくら口先だけだってわかってても、本当に嘘かどうかを証明することもできないから……」
無惨様は、しばらく言葉を失っていた。私の回答は、彼にとってそれほど意外なものだったらしい。
だけど、後ろ抱きにしていた私を引っ張り、正面から自分の腕の中に収め直すと、唇を塞いで――
「……紡希」
私の名を呼んで、髪を撫で、耳元で――確かに囁いた。
「愛している」
「……っ」
嘘で塗り固められた言葉に、私は愚かにも……この上ない幸せを覚えてしまった。涙が、こぼれる。止めることなどできそうにない。
弄ばれているのは、わかってる。無惨様は私の反応が面白くて堪らないんだろう。わかってる。わかってるのに、私は愚かにも、盛大に勘違いをしそうになってしまう。
……ああ、やばいな。私これ、今まで生きてきて、一番幸せな瞬間だ。私、もういつ死んでもいいな。人生に後悔なんかない。心の底からそう思う。
だからどうか無惨様。私を滅茶苦茶に抱いて、何もわからなくなるまで壊して――
全てが偽りだと気付かされる前に、今、この最高潮の瞬間に、殺してほしかったのに。
何故か彼は私をぱっと離して、こんなことを言った。
「ところで、私の服を買ってきたようだな?」
「へっ? あ、はい……」
さっきの……聞いて、くれてたんだ。そのことが嬉しいような、まだ熱を帯びた身体が離されて、なんとなく寂しいような。でも、興味を持ってくれているのはありがたい。せっかく、買ってきたんだもんね。