第14章 愛していると言えばいいのか?
私は頬を膨らませて、ベッドに突っ伏した。そうしているうちに、じわりと涙が浮かんできてしまった。
……ふーんだ。似合うと思ったのにな。私一人で盛り上がって、バカみたいだ。
でも……。よくよく考えてみれば、無惨様が私に優しくする理由なんて、どこにもないんだよね。私は彼にとってただの配下で、鬼としては珍しい性質を持っているから生かしてもらえているだけに過ぎない。
一緒に住んで、日常を過ごして……人間の恋人と同棲しているように勘違いしかけていたのは、私の方だったのだ。
「無惨様……ごめんなさい」
「何がだ」
「うるさくして……。それから、他にも色々です。ご立腹だと思うんで、気の済むまでズタズタにして下さい」
「…………はあ」
無惨様は、大きく溜め息を吐いた。あーあ、面倒臭い部下で、嫌になるよね。私、十二鬼月として相応しい振る舞いをしようって思っていたのにな……。
「まったく……お前の心は、いつまで経っても人間のままだ。記憶が消える気配も一向にないしな」
「消してくださいよ。苦しいんで」
もういっそ、記憶も自我も持たず、ただ命令を忠実に遂行するだけの下僕にしてくれたらいいのに。もう二度と……おこがましいことを考えなくても済むように。
なのに、私の言葉を無視して無惨様は話し続ける。どうやら、記憶を奪ってくれる気はないらしい。
「まあ……珠世のように、突然裏切ることもない点では良いのかもしれんが」
「たまよって……昔の恋人ですか?」
「お前に教える義理はない」
「……わかっていますよ」
「何だ、妬いているのか?」
「っ、妬いてなんかいません! 自意識過剰っ!」
「はは、過剰も何も」
そう言いながら無惨様は、席を立った。そしてそのままベッドの縁に腰掛けて……うつ伏せになったままの私の後ろ髪に触れる。
「私を愛しているから、人間の恋人を作るのを拒んだ癖に」
「なっ……! だ、だから心を読むのはやめて下さいって――」
「お前は、何とも無礼なことに……この私を自分だけのものにしたいようだな?」
「そっ、それは……」