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―夢の籠―(進撃短編集)

第4章 サンタになった黒猫/リヴァイ(2020,BDss)


雪がちらつきそうな空を見上げる。
少しの青もまもなく灰色に埋め尽くされそうとしていた。

「兵長、サンタをお願い出来ませんか?」
「悪いが、俺は服を汚したくねぇ」
「たまにでいいので、ご飯……あげてもらえると、この子も生きていけると思うので……」
「頭に入れておく」

今日、リリアは退団する。
母親が数ヶ月前から床に伏せてるという。兵団から支払われる給与だけではあまりにも足りない。
母親の治療代も出してくれるという程の良家にリリアは嫁ぐことになったのだ。
しかし、夫となる男は動物嫌いという。
猫を置いて行く他なかった。

いつも通りにリリアに抱えられ、猫は控えめに鳴く。もう猫は二度とリリアに会うことは無い。いつも抱き上げていたリリアがこれからはいないと知った猫は、どう思うだろう。
何気ない毎日に小さな幸せを与えていたリリア。
その、存在。それだけで満たされていたのは猫だけか。
兵士に向いていない。幸せな家庭が似合う。
そう思ったのは事実で、リヴァイはその時の自身の言葉に足す。

─俺が幸せにしたい。

「……リリア幸せになれ」
「幸せ……に?」
「あぁ。リリアは生涯の伴侶と子に囲まれて、幸せに暮らす方が似合っているからな」

猫を下ろすとリリアは小さく返事を返し深々と頭を下げる。
これでいい。言えるわけが無い言葉を無理やり喉の奥に突き返す。

到着した馬車に乗り込み、リリアは何度もリヴァイを見ては会釈する。
可愛がっていた猫とはいえ、汚れるのを嫌う上司だったリヴァイに預けるのだ。
リリアはそれが気がかりなのだろう。
リヴァイは腕を組み、兵舎から走り去る馬車をいつまでも見送る。
ガラガラ、カッポカッポ。
音は段々と遠くなり、聞こえなくなる。

「サンタ、お前には俺がいるから安心しろ。……腹減ったか?飯食うか?」

小さな体を片手で抱き上げ、両腕で抱える。
柔らかくて温かく小さな命。
リリアが安心して幸せになれるように願い、リリアの残した命を初めて抱きしめた。
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