第3章 恋のまじない/エルヴィン
数日後。
灰色の厚い雲が空を覆う。
目の前のエルヴィンは遠くの空をずっと眺めていて、壁を行き来する白い鳥を見ているようだった。普段は図体がでかい癖に背中が小さく見えるのは、きっと今のエルヴィンには人間味があるからだ。
「━━━━っ」
万年筆を握りしめ、エルヴィンはリリアの名前を呟く。
小さな形に変わったリリアは返事をする代わりに、草がさらりと揺れる。
相合傘のまじないと同じ。
消えた文字だけならどれだけ良かったかと思うような残酷な現実。
慰めるようにポツポツと雨粒がエルヴィンの肩に落ちだした。
「エルヴィン、雨が降ってきた。そろそろ行くぞ」
「・・・そうだな。リヴァイ、少しだけ先に行っててくれるか?部下達に指示してやってくれ」
「了解だ。お前は”ゆっくり”してから来い」
小さなリリアに敬礼をすると、俺はその場を離れる。すると、瞬く間に夏の雨は突き刺さるような勢いで降り始め、視界は白く濁った。
草木に混じった雨音に紛れ、離れた所から悲しみの声が混ざる。
「お前達の為に今、雨が降っている。今は、それでいい・・・」
天を仰ぐには辛い雨の日、アイツはエルヴィンの元から離れて行った。