第3章 恋のまじない/エルヴィン
「おっと・・・随分と長話をしてしまった。お前達と話していると時間が過ぎるのが早いな。今度は3人分の紅茶を持ってきてやるよ」
会議が終わった後のお茶の時間を思い出し、あの時の風景を思い出す。過去に浸るのは今はまだ早い。俺は立ち上がり、小さくなった2人に手を添える。
2人からは『楽しみにしているよ』、そんな声が聞こえてきそうだった。
「あの相合傘のまじないをまだやっている奴らがいるらしい。俺はエルヴィンの言う通りに今日も帰りにそこに寄って行くぞ」
指示でも命令でもない。
この確認のおかげで役に立つこともあった。いい意味ではないから、この2人に敢えて言うことでもないだろうと内容は伏せておく。
「それとだ・・・、今日は俺もその相合傘とやらをやってみようと思う」
リリアが目の前にいたら、俺の肩を揺さぶって誰ですか?!とあの時みたいに目を見開くのだろう。
周りの木々が急に風で揺れ出したせいで、余計に俺はそう思ってしまう。
少し待ってろと俺は愛馬に戻り、括りつけていたある物を片手に持ち2人の元へと戻る。
雨は降っていない。灰色がかった雲はもう見当たらず、気持ちの良い洗濯日和の空の色だ。
「ほらよ」
小さくなった2人の間に俺は深い緑色の傘をさしてやった。
「確か生きて帰ると恋が成就、カップルが書くと永遠を約束・・・だったか。ふざけたまじないだが、信ぴょう性はあるな」
タイミングは違うが2人の意思、魂は生き、帰ってきた。
そして今、2回目の相合傘をさした。
「お前たちはこれで永遠を約束・・・だな」
ポケットに手を差し込み、エルヴィンの万年筆を持ち主の目の前に置く。
風も強いわけでもなく、いつもの静かな風が吹いている。
エルヴィンの傍に自生した花がコイツの元に寄り掛かった。
──『もうどこにも行くな』
──『はい。ずっと貴方の隣にいます』
何かに縋り生きていた2人の寄り添う笑顔が俺には見えた。
次来る時はいい茶葉の紅茶に、長話用の菓子を持参し、2人の積もる惚気話を聞くとしよう。
Fin