第3章 恋のまじない/エルヴィン
普段出さないようなリリアの大きな声に俺は驚きつつ、メモと万年筆を渡す。
あ、エルヴィン団長の万年筆ですね・・・と一瞬目元が和らぐリリアに俺は首を傾げる。
リリアに渡した万年筆が何故エルヴィンの万年筆だと分かったのか。俺が渡す時に言葉にしたのか。俺の小さな疑問はリリアによってすぐ解決した。
「それ、私がエルヴィン団長に贈ったものなんです」
「・・・そうか。エルヴィンは・・・知っているのか?」
「知っています。知ってくれている・・・それだけで幸せなんです」
巨人相手に血を浴びながら自由に舞う姿とは程遠い年相応の無邪気な笑顔。
本来なら応援するなり励ますなりの言葉をリリアに言うべきなんだろう。
俺は兵士長であり、リリアは分隊長、そしてアイツは調査兵団団長。メモに記されている浮き足立った相合傘とやらの名前のやつらよりも、背負うものが多過ぎる幹部らのやつらは、色恋沙汰に疎い方が身のためなのかもしれない。
「今回の壁外調査・・・死ぬな。俺からの命令だ」
「エルヴィン団長からも同じ命令を言われました。リヴァイ兵長もご武運を!」
万年筆を俺に返し敬礼をすると、リリアはチラリと壁の落書きを横目にその場から去って行った。
俺は暫く壁の文字を眺めたあと、エルヴィンへの報告に戻り、アイツの書き記したものをそのままをエルヴィン見せる。
「ご苦労だったな、リヴァイ。それと、私の大事な万年筆を勝手に持ち出さないでくれ・・・随分と探したよ」
あぁ、そうか、コイツはこういう笑い方もするのか。貴族への胡散臭い笑顔じゃねぇ、心からの笑顔ってやつだ。エルヴィンを悪魔だの非情だのと罵倒したやつを首根っこ掴んでここに連れてきてやろうか。
俺はこう見えて目もいい。
エルヴィンは万年筆を親指でひと撫でしてから兵服の左胸側に差し込んだ。
疎い俺でもそれぐらい気づく。
つまりは・・・そういうわけだ。
「エルヴィン・・・精々、”やれること”はやるんだな」
「・・・・・・、あぁ」
俺はリリアを守れよ、とは言えなかった。