第3章 恋のまじない/エルヴィン
意味を深めたような物言いに俺は引っ掛かりを覚える。もしかすると、全てを把握してこいということなのだろうか。物覚えは悪くないが俺はエルヴィンの机に転がった万年筆とメモを兵服に仕舞うと、いつものフレーズを言い部屋を出た。
「了解だ。エルヴィン」
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「ったく・・・どいつもこいつも、めでてぇやつばかりだな」
噂の壁の落書きは大きく書かれたものや、ひっそりと小さく書かれたもの、中には草で隠すように書いていたものもある。他人の恋路には興味がないとはいえ、こういった仕事は罪悪感がある。
「は?俺の名前まであるのか・・・物好きなやつだな。ほぅ・・・こっちはエルヴィンか・・・。相手は・・・チッ、昨日の雨で消えてやがる」
顔を近づけて辛うじて薄く残る文字を読み取ろうとすると、背後に人の気配を感じマントを翻す。
気配の主は俺の顔を見るなり、にこやかに敬礼をする。この笑い方をするのはエルヴィン以外にリリアしかいない。
「あぁ、お前か」
「リヴァイ兵長がこのような場所にいらっしゃるなんて珍しいですね」
つい先日まで部下だったリリアは今では分隊長となり、今度は部下を指揮する立場にいる。
俺の後ろでニコニコと愛想の良い顔をしていても、リリアは歴戦の猛者であり、エルヴィンからの信頼も厚い。
俺のメモを覗き見るなり、趣味悪いですね・・・と軽蔑するように目を細めて見るものだから、俺は淡々と事の経緯を説明した。
「エ、エルヴィン団長がそんな事を?!もしかしてエルヴィン団長に意中の方が?・・・だからリヴァイ兵長に確認してほしかったのでしょうか」
「さぁな・・・。エルヴィンが何を考えているのか俺でさえたまに分からねぇ。だが、アイツを慕っているやつが多いことは分かった」
リリアに俺が書いたメモを見せると、見えるのか?と思うほど顔を近づけ、瞬きを忘れたように指で文字を辿っていた。
「・・・リヴァイ兵長?エルヴィン団長のところ、1つだけ女性の名前が記されていませんが?」
「あ?・・・あぁ、これか。昨日の長雨のせいか文字が消えかかっていて読めなかったやつだ。まぁ、1つぐらい分からなくても差ほど変わらねぇ」
「リヴァイ兵長!!ダメですよ!そのメモと書くもの貸してください!」