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―夢の籠―(進撃短編集)

第3章 恋のまじない/エルヴィン


エルヴィンの計らいで壁外調査前は兵士に休息が与えられるようになった。友や仲間と過ごすのも良し、家族や愛する者と過ごすのも良し。それぞれが想う相手と過ごし、決意を固め己と向き合う時間となる。
形として見えない想いは、人類へ捧げた心臓をより強化され、確固たる自由への憧れと変わっていくのだ。

「アイツらに逢いに行くか」

愛馬を走らせいつもの場所へ向かう。
清掃後の達成感のある清々しい汗とは違い、夏のジメッとした空気が顔を撫でる。不快な水滴が体からじわりと出てくるが、アイツらがいる空間は静かな風がいつも吹いていて、俺の眉間も和らぐってものだ。

「・・・相変わらずの二人だな。まぁ、いい。今日は非番で時間がある、思い出話でもしようじゃねぇか」

俺は随分と小さくなったエルヴィンとリリアの前に座った。




*****


「なぁ、リヴァイ知っているか?」

「あ?・・・・・・知らねぇ。興味がないな」

つれない奴だな、とエルヴィンは澄ました顔でガリガリと書類に筆を走らす。人のことは言えないが、エルヴィンの書類への記入量は膨大。そのせいで利き手だけが太くなっているような気がする。

「最近、若い兵士たちの間で流行っているものがあるのは知っているかな?」

興味がないと言ったのにエルヴィンは話を続ける。こいつはそういうやつだ。
流行りや噂話に疎い俺は無言で足を組み直すと、それを”知らない”と判断したエルヴィンは再び話を続けた。

「先日、ハンジから聞いた話だよ。壁外調査前に内側の壁に相合傘を書く。生きて帰ると恋が成就。カップルが書くと永遠が約束される・・・というやつだ」

開いた口が塞がらないってのは本当にあるようだ。思わず滑り落ちそうになったティーカップを反対の手で支える。
流行りや噂話以上に色恋沙汰の話に俺は疎い。

「それを俺が聞いてどうしろと?」

「部下のことを”よく”知るには打ってつけだろう。部下の精神の健康の為にも把握しておくように」

指示なのか命令なのか分からないニュアンス。エルヴィンは書類を書き出してから初めて俺を見るなりにこやかに言った。



『頼んだよ』




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