第1章
「信長さまも人が悪い」
「不満か?」
「いいえ」
光秀の含み笑い。
信長は開け放たれた天守の窓際に立ち、離れた山間(やまあい)に上がる黄土色の煙を見ていた。
「俺が天下を治める。そのために邪魔なものは除くだけよ」
「政宗が裏切ると?」
「同盟など所詮は口約束にすぎん。俺を利用し、俺に利用されるための都合でしかない。覚えておけ」
猿も貴様も例外ではない、と冷ややかな目で光秀を射抜きながら吐き捨て、天守から出ていった。
「くわばらくわばら」
信長が見ていた景色を見ながら、誰もいない天守でひとりごちた。