第1章
「おはようクナイ」
クンクン、クンクン
「クククク!」
「相変わらず目覚めが悪いみたいだね」
クスッと笑って触るのを諦め、クナイが集めて吐き貯めた餌を選って、鼻先へ出す。
「ご飯だよ」
クンクン、クンクン
カリカリカリカリチャチャチャチャチャチャ
カリカリカリカリチャチャチャチャチャチャ
指先で頭を撫でる度にそっぽを向かれながら、クナイが食べているうちに自分の朝餉も食べてしまおうと立ち上がる。
そろそろ消費しておきたい干し飯(ほしいい)を味噌溶き湯でふやかして、サラサラと食べ切った。
「ご馳走さまでした。クナイ、食べた?」
クシクシクシクシ
ピタッ
キョロキョロ、キョロキョロ
クシクシクシクシ
顔周りの毛繕いをした指先を舐めつけて、脇からお尻にかけての毛繕いを始めた。たまに動きが止まる。
器やら鍋やらを片していると、クナイが背中から肩へ登ってきた。鼻先から伸びる髭(ひげ)が頬に当たってくすぐったい。
「もう終わるよ。政宗さんの所に行って、タラの芽食べよう」
クンクン、クンクン
ピタッ、キョロキョロキョロキョロ、キョロキョロ
鼻の動きが忙(せわ)しなくなり、心なしか尻尾が膨らんで見えるのを見逃さなかった。
「どうした?」
クンクンクンクン
キョロキョロ、キョロキョロ、クンクン
「クナイ?」
「……………!キキッ!キキッ!!」
「…ッ!」
ヒュンガッッッ!!!
クナイが鳴くやいなや、格子(こうし)の隙間から投げ込まれた仕込み小刀が、危ない火花を散らして柱に突き刺さった。