第1章
トンッ
「…っ!!」
頭に何かが降ってきた。
それは器用に髪を伝って、佐助の右肩に鎮座する。
「クナイ…!無事だったのか」
「情けねぇなぁ佐助!」
壁の向こうから伊稚(いち)の声がする。
「どうして…!?」
「お前の栗鼠(リス)が呼びに来た」
「雨乃?雨乃もいるのか」
「はぁ?」
キィーンッ!!
「よそ見すんな」
「助かったハゲ!」
「禿げじゃねぇ!全剃りだ!!」
雨乃と佐助に目掛けて投げられた手裏剣を白鹿(しろく)が刀で弾き返し、二人に背を向けて立ちはだかる。
変わんねぇよハゲ、と軽く吐きつけた雨乃は、佐助の目を見てギョッとした。
血でも吹き出しているのかと言うくらい、眼球が紅く染まっていたのだ。
(厄介だな)
「佐助」
キュポン、と栓を抜く音は佐助にも聞こえ、見えない誰かの気配に警戒を強める。
「……雨乃、なのか?」
「口に入ったら黙って飲み込め。オレを信じろ」
チュプン、と小さい水音のあと、柔らかいものが唇に触れ、苦い液体が流し込まれる。
「…っ!」
「吐くな、飲み込め。飲み込んだら目を休めろ」
それだけ言うと、雨乃の気配が佐助のそばから消えた。