第1章
相撲の立ち会いのように物音1つで火蓋を切って落とすなんて、作られた世界の虚像だと思っていた。
ガキーーーーンッッ
「…っ!」
勝敗を決めるのに審判や立会人がいない場面なんて、現実世界では出会わないし、そもそも敵同士。
息が合う、なんてまずないと思ってた。
ギリギリギリギリ…ッ
それなのに。
ザザッ
ヒュンッ、ヒュンッ
受けた刀を弾き返し、返す刀でニ,三歩踏み込んでみるも、柳のしなやかさで同じだけ下がられてしまい不発に終わる。
闇雲に相手の間合いへ押し入ると、簡単に返り討ちにされる。
「………っ」
この場面でまきびしは無い。
手裏剣もクナイも、無計画に投げられるほど潤沢にあるわけでもない。
(別の拠点まで行ければ…)
背後からヒュンヒュンと、空を切る音がする。
「逃がさぬよ」
前方の刀。後方の鎖。
(参ったな。巻くのも容易じゃないってことか)