第2章 Story-0 empty
「私は“ハムラマアヤ”って言うのよ。」
牡丹からシャープペンシルを奪って黒髪の少女は紙に“羽村真綾”と書いた。
くしゃくしゃの、画と画の間に線の残る字だった。
僕が小さく「真綾。」と呼ぶと、にっこり笑って「なぁに?」と言った。
作り笑いなのは、すぐ解った。
「私も…書くべき?」
真綾と牡丹の後ろに、いつまでも立っていた彼女が、口を開く。
「お前がカラシロに名前を呼ばれたくねぇなら、いいけどな。」
牡丹が言う。
彼女は眉間にシワを寄せてから歩いて来て、書き始めた。
「私は、“タダサキイツキ”…。」
紙に“唯崎斎”と書いた。
真綾と同じような字だった。
僕が小さく「斎。」と呼ぶと、悲しそうに笑って「うん。」と言った。
僕には、彼女の事が解らなかった。