第1章 春は出会いの季節です。
「ありがとな、。」
ああ、やっぱりバレている。
私に微笑む手嶋先輩を見てため息をつきたい気持ちになっていると、先輩が続ける。
「あーもう……可愛すぎるから今抱きしめたいけど………セクハラになるからやめとくわ。」
「なっ………!!何言ってるんですかー!?」
自分で言ったことに対して声を出して笑う先輩を見て、理解する。
やっぱり私を笑わせるために茶化してくれているんだ。優しいな。
そう思うと、心の底から嬉しい気持ちがわき上がってきて、自然に笑顔になってこぼれた。
それを見た手嶋先輩は安心したように笑うと、私にこう告げる。
「。俺はここじゃ終わらねぇから。」
「先輩…」
「必ず、次に繋げてみせる。……だからもう泣くなよ。」
「は、はい………!」
私の返事を確認した手嶋先輩は軽く頷くと、私に背を向ける。
「じゃあ行くわ。小野田に早く渡してやりたいしな。」
「はい、気をつけて…!」
再びゆっくりと歩を進め出した手嶋先輩を見送る。
一年越しで目指してきた夢が破れても、きちんと自らを律し前を向く。
先輩の強さを目の当たりにし、私は自分ももっとしっかりしなくてはと思い直すのだった。
合宿最終日は、その日の日付が変わるギリギリのところで小野田くんが1000キロ走破してゴールし、幕引きとなった。
手嶋先輩の助けが大いに功を奏したらしい。
合宿が始まったときは途方もない距離に感じていた1000キロという道程。
けれど着実に積み重ねれば、こんなに遠いところへだって行ける。
それを証明してもらったような気がしていた。
皆のように速くは無理だけれど。
私も一歩一歩、前に進みたい。
身の引き締まる思いのする、4日間だった。