第1章 春は出会いの季節です。
ふんわり笑顔をこちらに向ける彼。
最初見たときは必死で気付かなかったけど、まるでアイドルのように整った顔立ちの人だった。今泉くんとはまたタイプの違ったイケメンだ。
例えて言うなら今泉くんは涼やか、クールな感じ。目の前の彼は甘くて可愛い感じ。
彼は私の返事を聞く前に前方にそびえる坂に向き直り、自転車をスタートさせた。あっという間に彼の背中が小さくなる。
速い……
彼もロードバイクに乗っていた。
あっという間に過ぎ去るその背中を見送る間、考えた。
この辺の学校の自転車部の子なのだろうか。恐らく年は同じくらいだと思われる。それとも趣味で乗っているだけのただの学生か。
普段から皆の練習を見ていると、ロードバイクというのは魔法のような乗り物で、乗れば直ちにバイクのような速度で走ることができ、ぐんぐん坂を登れるようになる、そんなふうに思えてしまう。
今の彼にしてもそうだ。坂を坂とも思わないような加速だった。
彼らにしてみれば、ママチャリとはいえほんの少しでしかない斜面の坂でもすぐに音を上げて足を地面につけてしまう私からすると、尊敬の念しかない。
何故これが登れるのか、不思議で仕方ない。
そんなことを考えるともなしに考えていると、あっという間にさっきの彼が風を連れて私の元に戻ってきた。
「はい、救出完了〜!彼、ものすごい勢いで渡したボトル飲んでて面白かったよ。もう大丈夫じゃないかな。」
「あ、ありがとう…ありがとうございます!本当になんてお礼言ったらいいのか…」
「いや、いいよお礼なんて。俺山で困ってる人ほっとけないんだ。」