第1章 No.1 サディスティックな男の子
─はい。こちらhcです。
お掛け間違いではございませんね?
スマホの向こうから聞こえてくるのは淡々とした男性の声。
肯定の言葉を返すと ご利用ありがとうございます。
ご要望は御座いますか? と聞かれ、なんと言えばいいかと黙り込んでしまった。
─突然聞かれても困りますよね。
困ったように沈黙を破られ、電話したにも関わらず何も考えていなかった事が申し訳なく謝罪を述べたが
─何も答えられない方の方が多い...というより、答えられる方はごく稀ですから。
なので、何も気にする事はございません。
緊張を解す為、少しお話しましょうか。
私の緊張を解す為か、最初より柔らかい話し方になった男性の声に少しだけ肩の力が抜けた。
─まずはシステムについて少しお話しましょう。
お電話を下さったという事はご存知だと思いますが、
本番が始まりますと、お客様の声はこちらに聞こえなくなりますので、声を聞かれる心配はございません。
そして、何かございましたら一方的に電話を終了させて下さって構いません。
そう言うと少し間が空き
─いや...。
このような話では緊張は取れませんね。
と、仕切り直し、まるで友達のような口調で自分の趣味や最近の出来事を話し始めた。
全く興味のない話題のはずなのに、楽しく聞けるのは話し方がとても上手いからだろう。
こんな風にたくさんの女性の緊張を解しているのだろうか。
私の相槌に笑い声が混ざり始めた頃。
─それではそろそろ、本番へ移ろうか?
そう告げられドキリとした。
このままこの人と話し続けるなんてのはおかしな話な訳で、はい。と小さく答えた。
─〝ピー〟と鳴ったら、そっちからの声は聞こえなくなって、始まりになるから。
じゃあ、存分に楽しんでね。
話していた時とは違う艷めかしい声色にゾクリとした耳に〝ピー〟と1つ音が響いた。