第7章 フクロウの夜明け
「行くよ猛」
話を終えた及川が影山の前を通りすぎようとしたとき、待ってください!と影山の声がそれを引き留めた。
「まだあるの? 悪いけど、これ以上お前に付き合ってる時間は……」
「花菜さんのことです」
影山から発せられたその名前に及川の足はピタリと止まる。まだ何も聞いていないのに、及川の胸には嫌な予感が広がっていた。
このタイミングで花菜の話。しかも、あの影山がわざわざ自分に伝えようと思う内容。
嫌に速まる鼓動を抑えて、及川は平静を装った。
「なに?」
「昨日までの東京遠征で花菜さん、幼馴染の人と再会してました」
「……は?」
「俺は花菜さんに幼馴染がいたことすら初耳でしたけど、及川さんなら何か知ってるんじゃないかと思って」
「花菜が 幼馴染くんと…」
まさか、と目を見開く。しかし影山の目に嘘は感じられない。
及川は花菜が京治と再会した事実を受け止めると同時に、激しい波が押し寄せてくるのを感じた。
ついさっきまでは彼に偉そうに指図していた癖に、花菜の話になった途端にこれとは。
心は嘘をつけない。及川の胸は花菜の話題で確かにざわついていた。
「花菜さんの幼馴染は東京の梟谷学園の2年生で確か名前は… 赤葦さん、だったと思います」
"赤葦京治"
名前は前に花菜から聞いたことがある。ありえない、そう思っていた確率を彼女は本当に引いてしまった。
きっとそれは、花菜にとっては嬉しいことだったはずだ。けれど及川にとっては最も恐れていたことである。
「赤葦さんのポジションもセッターでした」
さらにポジションも見事に丸かぶり。追い打ちをかけるような言葉に、及川はぐっと拳を握りしめた。
「飛雄」
「なんすか?」
「俺、決めたよ」
そろそろ俺も腹を括るときだ。
不思議そうな視線を送る影山に及川はふぅと息をつく。その目にはある覚悟が宿っていた。