第6章 夏風の誘い
「おぉっ、あれは…っ!」
「あれはもしや…!」
「「スカイツリー!?」」
バスを降りてすぐ目に入った鉄塔に、田中と西谷はキラキラと目を輝かせた。
田中と西谷のはしゃぎように、出迎えてくれた音駒の主将─ 黒尾鉄朗は腹を抱えて笑っている。
「「うぉーっ!来たぜ東京ーっ!!」」
東京遠征1日目。長いバスの旅を経て、花菜たちは会場である音駒高校に到着した。
本当に初っぱなから恥ずかしい、と頭を抱えた花菜に澤村が声をかける。
「あいつら2人の世話は頼んだぞ結城」
留目を刺されてしまった。
この遠征期間、花菜の体力は一体どこまで持つだろうか。
「が、頑張ります」
「てゆーかおい。なんか、人足んなくねぇか?」
ふたりの元に、そう問いかけて入ってきたのは トサカヘッドが特徴的な黒尾だった。
そう、今この場所には日向と影山のふたりがいないのだ。
今回のテストで赤点を回避することができなかった二人は、田中の姉の手を借りて後から合流することになったのだ。
日向と影山はきっと今ごろ補習を受けている頃だろう。
色んな意味で期待を裏切らない変人コンビに、花菜は小さく苦笑いを溢した。
「よし!これで全員かな」
最後の月島たちがバスから降りたのを確認すると、花菜は仁花に声をかける。
「私はバスの点検をしてから行くから、仁花ちゃんは潔子先輩と先に中へ行ってて」
「分かりましたッ!」
「それじゃあ花菜ちゃん、そっちはよろしくね」
「はい」
清水に返事を返して花菜は車内の点検を始めたのだが、一ヶ所だけやけに雑誌が散らかっている席があった。
日向と影山がいないとなれば、犯人は間違いなく田中と西谷だろう。
澤村の期待に沿うためにも、あの二人のことはあとできちんと叱っておかなければ。