第5章 夢見る
『何してるんですか』
継子が話しかけてくる。
その姿形、声までもが霞がかって不鮮明なのに私は躊躇いもなく答えるのだった。
『お墓ですよ。手を合わせているんです。』
『…それ、お墓だったんですか。こんなところに?』
継子が興味なさげに言う。拾ってきた大きな岩をズルズル運んでお館様から与えられた屋敷の庭に置いた。埋まっているのは父の書斎のカーテンと噛みちぎって腐り果てたへその緒。
『はい。愛しい我が子のお墓ですよ。』
『……師範、子供いたんですか。』
今度は驚いた。やっと興味を持ったらしい。
『はい。いましたよ。』
私はここぞとばかりににっこりと笑った。無表情ながらに継子の顔が曇った…気がした。顔が見えないのになぜわかるのだろう。不思議だ。
『…鬼に殺されたんですか。』
私は首を横に振った。
『いいえ。産まれてすぐこの子は死にました。死体を鬼に食われました。』
『旦那さんは?』
継子は遠慮がない。これが失礼だとか思わない。普通は聞くのをためらうだろう。子供が死んだならもしかしたら旦那は死んでいるかもしれない。それを考えない。
でもいいんだ。この子はこれでいいんだと思う。この子はこの子らしく、自由にやればいいんじゃないか。この子の闘い方にも何となくそれが見える。
鬼から人を守れたらそれでいい、鬼を斬れたらそれでいい。
でも下の隊士には優しい子になってほしいし、私は君に生きてほしい。
『いませんでした。結婚していないのですよ。それに死んでいます。』
『結婚してない?お母さんだけじゃ産まれないよ。お父さんもいなきゃ。僕知ってるよ。』
継子が馬鹿にするなと言いたげだ。私はまた笑った。
『賢い君ならわかるでしょうが、実の父親とは結婚できませんよね。』
『……え?』
継子が言葉を失う。
『望まれて産まれる子供もそう多くはないものです。』
私が再び手を合わせる。
『じゃあ何で愛しいなんて言うの?何で父親は鬼にも殺されてないのに死んでる?何で産んだの?』
理解できないのだろう。
でもこの子は私の罪をもう悟ってしまった。
『罪深いのは、襲った父を殺し子を産み落としたこの私だけですから』