第53章 落下
「ばっかじゃないの!?」
陸に上がりガタガタと寒さで震える私に桜くんがタオルを渡してくれた。
……?何でタオル持ってるんだ??
「未使用だよ!さっさと拭け!!」
ものすごい剣幕で言われ、慌てて体を拭いた。グショグショの制服のスカートが張り付いて気持ち悪い。
「ほらこれ!!僕のだから小さいけど!!あっち向いてるから!!こうやって隠してあげるから着替えな!!」
桜くんは大きなタオルで公道からは見えないようにしてくれて、私と真反対の方向に顔を背けた。
私はお言葉に甘えて着替えた。桜くんのジャージは確かに小さい。恐らく長ズボンなんだろうけど、袖が足りない。
上はセーラー服、下はジャージという珍妙な格好になった私はびしょびしょに濡れたスカートとマフラーをしぼった。
「何でこんなに用意周到なの?」
「あー…。いや、なんとも不気味なんだけど…昨日の夜に、タオル数枚と下の着替えをもって夕方に河川敷に言ってくれって家に電話きてサー。」
「えっ、誰から?」
「氷雨サン」
そう言われ、私は疑うこともなく納得した。
あり得る…あの人ならやってのける…!!!
「理由は聞かなかったよ。持ち物からして誰か溺れたりするのかなーって。まあ場所的に考えて?僕に頼むあたり、霧雨さんしかいないよネって思ってたし。」
「……二人とも、すごすぎるんだけど…」
何でそんなにポンポンと憶測ができるんだ。それに全部正解だし。
「端からみたら入水自殺に見えて焦ったよ。マフラーなんて諦めてまた買えばいいのにさ。たま~に馬鹿になるよね。任務のときもさぁ、鬼も斬るし人も守るし全部自分がやります~って感じでマジ苦手だったわぁ。」
そして前世のことまで持ち出されて、私は桜くんに寒空の下グチグチと小言を言われるのであった。