第49章 愚者
私は実弥と関わるのをやめてしまった。
学校でアイツから話しかけてくることはないし、クラスも違う。私が大人しくしていれば会話はない。登校時間もずらせばいい。
実弥は私なんかに構わず自分の好きなことをすればいい。
幼い頃からそばにいたから、たくさん迷惑をかけてしまったけれど。まだ遅くはないはず。
実弥と疎遠な距離を置いたことになれた頃、期末テストが終わり冬休みが訪れた。教室が歓喜に湧く中、今年中のお別れをみんなと告げる。
「霧雨」
「わああ!」
なぜか隣のクラスの冨岡くんが私の背後にいた。気配でわかってはいたが、突然話しかけられるとさすがに驚く。
「行くぞ。」
「え、あ、うん。」
今日は将棋部は自主練という名の実質休みである。今日は参加する予定はなかったのだけれど、対局のお誘いだろうか?いや、それにしても彼がこんなことをわざわざ言いにくるなんて珍しい。
しかし妙にワクワクした様子を見ると、それは当たっているのだろう。どれだけ楽しみにしていたんだ、全く。
私は荷物をまとめて慌てて彼について行った。
この一年と少しで私もだいぶ彼のことを理解できるようになった。
その時、少しだけ教室の雰囲気が変わったことに気づいて振り返ったが、皆の様子は変わっていなかった。
カナエと目があって、何だか驚いた様子だったが声をかけられなかった。何だろう。何かあったのかな。
「今日こそは俺が勝つ。新たな戦法を思いついたんだ。」
「そうなんだ…。」
冨岡くんはずっと負け続きで、私に勝てないことを根に持っていた。一度わざと負けたことがあるが、かなり怒ったいた。表情は変わっていなかったが。
案外負けず嫌いなんだなと思う。けれど、隣のクラスに乗り込んでくるなんて!
「冨岡くん、私が買ったら肉まん奢ってよ。」
「む。寄り道はダメだ。」
「いいじゃん。もう冬休みだよ。」
「じゃあ、俺が買ったらおでんの大根を奢れ。」
「いいよ。」
私はクスリと笑って、どう勝ってやろうかと算段を立てるのだった。