第44章 前世の記憶ー秘密を霞にまいてー
珍しいです。
桜くんと安城殿が言い合いをしていません。
というか、桜くんが全く何をされても食いつかないのです。
この日、私達は桜くんによって集められていました。
まだあどけない少年の桜くん…は、私よりひとつ歳下でした。
彼は少しいつもより低い声で話始めました。
「この中で、上限に会ったことのある人はいる?」
「…?」
「いないよね。」
「どうしたんだい。」
氷雨くんの問いにも答えず、一方的に話し始めた。
「僕は、妹を鬼に殺された。上限の弐だった。」
「…!」
初めて聞く話でした。安城殿が驚いていました。
「僕は一生懸命度力をして、柱にまでなったけど、きっとどの上弦にも勝てない。ましてや妹の敵なんて無理だ。僕は全然背が伸びないし、筋肉もつかないし。」
だんだん桜くんの声が弱くなってきました。
「だからね、僕は、いっっぱい鬼を研究しているんだ。僕が死んだ後に誰かが役に立ててくれるように。きっと誰かが鬼を滅ぼしてくれることを信じてる。」
これは有名なことでした。鬼に感する知識に関して、彼に敵う人はいません。
「桜、何言ってんのよ、あんた…!!」
「聞いて。」
桜くんは続けました。
「そのうち、僕はその研究を…鬼を人間に戻す薬、血鬼術の解毒剤、ありとあらゆる薬の開発に生かそうとした。どれも効果はいまいちだった。でも、その過程でなぜか完璧にできあがった薬があるんだ。」
「何だい、それは」
桜くんは懐から瓶を取り出した。綺麗な青い液体が入っていました。
「それが薬なの?嫌ねえ、そんな色の液体。」
そうでしょうか。綺麗だと思いますが。
「何の薬だい?」
氷雨くんが優しく尋ねる。
桜くんは、ゆっくり、丁寧に回答した。
「鬼になる薬」