第36章 前世の記憶ー幼き日の貴方ー
「お久しぶりですね」
にこりと微笑むその人は、いつの間にか記憶のすみに追いやられていました。
こうして鬼殺隊となり、再会してやっと思い出したようなものです。
「……分家の…」
「はい」
私の親戚にあたる人です。
言ってしまえばいとこなんですけれど、ずいぶんと年が離れていますし、たったの一度しか会ったことはない。
身分で言えば私の方が圧倒的に上でした。
「なぜ、鬼殺隊に…?」
「なぜ?」
その人は優しくて、顔さえ見れば笑っているような人でした。
「妻を、鬼に食われまして…。」
「そうですか。」
その人は、困ったように笑った。
「相変わらず、大切な感情が欠落しておられる…」
「大切な感情?」
その人は、私に何を見ていたのでしょう。けれど、ほんの数ヶ月後にその人は引退してしまって。大きな怪我をして、もう闘えなくなったと。相当悲惨な怪我だったようで。
「これ、アイツから。」
泣き腫らした顔の安城殿が私に何かをよこしてきました。
「何ですか、これ。」
それは、真っ白な箱でした。
その箱は何をしても開けられず、いつしか押入れの奥に閉まって、ずっとそのままでした。
その三年後、たった一人の同期である安城殿の葬式にその人は出席されました。車椅子でした。
両足がなく、左目は眼帯で見えませんでした。頬に大きな傷跡があり、怪我はよほどのものだったと伺えます。
「箱は、開きましたか」
私を見るや否や話しかけてきました。葬式にもかかわらず私はにっこり笑っていました。
「箱…ああ、ありましたね。開かないので、押し入れにしまいました。」
その頃になると、もう箱の存在も忘れかけていました。
「…呼吸で開きます。」
どこか悲しそうに笑って、その人は言うのでした。
その葬式から会うことは一切ございませんでした。私はその人が亡くなったと耳にすることはなかったので、生きていたのか…人知れず死んだのか、私のしるところではありませんが。
その後、箱を開ける方法を解明し、箱は開きました。