第34章 進展
「けれど、何で急にお見舞いなんか来だしたのかしら。しかも前世でどうのこうのってわけがわからないし。」
優鈴の母親は枕元に置いてあった花瓶の水を変え出した。
そこで、私はお見舞いの品を何も持ってきていなかったことに気づき、恥ずかしくなった。
「あのう、いつ頃目が覚めますか。多分、私と冨岡くん…彼の顔を見たらわかってくれると思うんです。その前に来た人のこともわかったんですよね。」
「いえ…。目は覚めないわ。前の子も寝顔を見て帰ったんだもの。」
彼女はふう、と息を吐いた。
「……この子は、二年前から眠ったまま…。」
「え……?」
母親は私達に背を向け、窓の外に目をやった。
「“おやすみ”って言って、あの日も普通に眠りについた…けれど、なぜか目が覚めないの。」
彼女の身に付ける装飾品が太陽に反射してキラキラと光っていた。
「どうして起きないのかしら。前世からの知り合いだっていう、愉快なお友達が会いに来てくれたのに。何か起こるかもって期待したけど、そんなファンタジーはないわよね。医者も原因がわからないっていうし。」
それが無理に着かざっているような不自然さを見せていた。
「」
実弥が私の肩を叩く。私は黙って頷いた。
「ごめんなさい、その…無神経でした。」
「いいのよ。優鈴は…。ちょっと不思議な子だなあと思っていたから、その、前世がどうのこうのって言われてもこの子ならありえるなあって思えてしまうくらいだもの。」
母親はふにゃりと笑った。
「…笑い方、優鈴と一緒ですね…。」
「あら、そう?」
恥ずかしかったのかすぐに顔を戻した。
「また来てね。もし目が覚めたら連絡するわ。」
私は彼女と連絡先を交換して帰った。
その日の帰り道はほんの少し雰囲気が暗かった。
「…二年前を最後に大会から姿を消した謎がわかったな。」
「そうだね。」
「何で起きないんだろうな。」
唯一優鈴を知る彼と少し話した。電車の中で他の二人は眠っていた。
「…過去に帰ったのか」
「どういうこと?」
冨岡くんは、少し間を置いてから答えた。
「いや、いつだったか。よく居眠りをしていた時の霧雨さんに似ている気がしてな。」