第30章 前進
その日の帰り道に私と実弥は久しぶりに二人きりになった。
「…悪かったな」
「え?」
「その、何もわかってないのに…ひどいこと言った。」
改めて言われて、私も謝った。
「……私だって悪かったよ。ごめんね。」
そう言うと、実弥はふっと笑った。
「俺さ、ずっと思っていたんだよ。」
私は真剣に話す実弥の横をただ見つめた。
「ずっと思っていたんだ。何で俺が…あの“霧雨さん”の幼なじみなんだってな。」
「実弥…。」
「“霧雨さん”は雲の上の存在だった。」
初めて。
初めてこんな話を聞いた。
「明らかに釣り合わねえんだ。俺となんかじゃ。」
「それは…ッ!!!」
違う。
だって、私は。
私は……。鬼殺隊を裏切った。
「現世じゃあよォ…関係ねえって…思うことにしてたんだよ。」
「……。」
「……だが、それでも埋まらねえもんはある。あんたの過去も俺の過去も変わらない。」
実弥は笑っていた。けれど、とても悲しそうだった。
「雲の上が何だって言うの!?」
思わず私は叫んでいた。
叫ぶようなタイミングではないとわかっていたけれど。
言ってやらないと気がすまない。
「私が!どれだけ!!自分の力のなさに打ちのめされたと思ってるの!!!」
実弥は驚いていた。それでも私は止まらない。
「何人が私の目の前で死んだと思う?」
「……。」
「……強さじゃない…強さじゃないよ…。強くたって、守れなかったら意味がない…。死んだら意味がない。」
私はぎゅっと拳を握りしめた。
「歩いていくのに精一杯なのに、雲の上なんて行けるはずないじゃない。」
「…。」
実弥は少し目を伏せた。
今度は嬉しそうに笑った。
「何か、お前と話してると…。」
「……なに?」
「改めて幼なじみでよかったなって思うわ。ちょっとおそれ多い気はするが同じ土俵に立てるし、こうやって堂々ととなりにいられるだろ。」
そう言う実弥の笑顔に、私は胸が痛んだ。
幼なじみだから、となりにいる。
その真実が何よりも痛かった。