第23章 面影
…やるか。
うん、ここまで相手が真剣なんだもん。やらないと失礼だ。もうどうにでもなれ。
私は刀をかまえた。
「ようやくやる気になったかあッ!!!!!」
この体で呼吸を乱発するとガタがくる…そう思っていた。しかし、過去の記憶を取り戻した私は体に負担の少ない呼吸の使用法をちゃんと思い出していた。
「轟ッ!!!!!」
くる。
左斜め上。
カァン!!と木刀がぶつかり合う。私は思いっきり宇随先輩をはじいた。
「ちっ!」
宇随先輩が向かってくる。でももう、遅い。
「霞の呼吸、陸ノ型」
煙に巻くように宇随先輩の周りを駆け抜ける。
「月の霞消」
ぺし、と宇随先輩の腕を叩く。からん、と木刀を一本落とした。
「なっ!」
突然目の前に現れた私に宇随先輩は驚く。
ふふ、と笑いながら次の攻撃を繰り出す。
「刀二本持ってるのにがら空きですよ…!」
「くっそ…っ!!」
攻撃を連続で繰り出す。先輩は防げない箇所が増えてきている。
「宇随、遊ばれているぞ!」
「わーってんだよ!!」
「おい!ちんたらやってねえで終わらせろ!」
野次がうるさいなか宇随先輩の木刀を叩き上げる。その後、思いっきり低くもぐりこんだ。
「肆ノ型、移流斬りッ!!!!!」
思いっきり切り上げる。この技だけ本気で出した。宇随先輩の筋力に真っ向から勝負するならこうでないと。
「がっ!!」
宇随先輩が手を離す。木刀が宙を舞い、二本ともからんと音をたてて落ちていった。
「これで五分だよね?」
「あ、はいっ」
時間を見ていた千寿郎くんが頷く。
「だーっ!やっぱり遊んでやがったな!?つーか手!手がしびれてやべえ!!」
「……」
あんまりこういうこと言いたくないけど、五分間も本気でやりあってたら多分、宇随先輩は手がもたなかったんじゃないか…。
大丈夫かな。
手、治るかな。
私ははらはらしていたが、木刀を拾い上げるときには平気そうな顔をしていたのでホッとした。