第22章 前世の記憶ー蝶と鬼の戯れー
時は前世。
しのぶが珠世さんのところに来るようになってしばらく。あれは、しのぶがもうここに来る必要はなくなったのだと挨拶しにきたときだった。
「霧雨さん」
「何?」
私達は普通に話していた。
しのぶは最初から最後まで私に特になにかを聞いては来なかった。
ただ、私に対する凄まじい怒りが伝わってきた。
「あなたが…あの珠世さんと一緒にいるということは、鬼舞辻を撃つためだということはよくわかります。」
「……そう。あのね、しのぶ。」
私は一度だけそれに触れたことがある。
「我慢しなくて、いいよ。」
「…何をですか?」
「だって、ずーっと怒ってるから。」
しのぶは笑顔のまま固まった。
「お互い様じゃないですか」
「何が」
「自分はあんな過去を隠しておいて、今さらですよ」
「…過去?」
「聞きましたよ、あなたの罪の真相を」
それには私が固まった。話した?誰が?知っているのは行冥と…お館様のみ。
「…しのぶ」
「何ですか」
「………怒って、いるよね」
私は改めて言った。
「けど。私の存在は黙っていてほしい。まだ知られるわけにはいかない。」
「……何を隠しているのですか?」
私は首を横に振った。
「それは…言えない。」
「…秘密だらけの人ですね……。」
しのぶがため息をはくように言う。
「……あなたも。」
私はしのぶの体をじっと見つめた。その体内には…。
「しのぶ、約束して欲しいことがある。」
そう言うと、しのぶはキッと私をにらんだ。
「あなたの存在を黙っていることをですか?とっくにお館様に相談していますよ。…ですが、お館様は……。承知の上だと…。」
……そう。やはり、バレていた。
お館様は知っていた。それなのに、黙認している。
…恐らくわかっていたのだろう。私の目的を。
だがそれは果たすことができなかった。私は死んでしまった。
「違う。……私にまた会いに来てくれないか。」
「…霧雨さん、私の目的は果たされました。もうここには…。」
「……約束、してくれないか。」
私は知っていた。これがしのぶとの最後の会話であることを。
だって、もう明後日にでも、産屋敷は…。お館様は。珠世さんは。そうしたらしのぶは。
全てわかっていること、知っていること。