第19章 別れ
……ここはどこだ。
辺りを見渡すと、綺麗に藤の花が咲き乱れていた。
この中で、まるで行き先を示すように道ができていた。
そこに。
私の通り道に、両親がいた。
「…お父様、お母様」
二人とも。
なぜか、とても優しい…素敵な笑顔だった。
「……私を…ほんの少しでも………愛していましたか……?」
今になって、なぜこんなことを聞くのだろう。私は自分がわからない。
けれど。
私は、頷いて欲しかったのかもしれない。
「……」
「……」
両親は黙って頷いた。
そして、私に頭を下げた。
「ごめんね」
母が言う。
「すまなかった」
父が言った。
風がどこからともなく吹いて、藤の花びらが舞う。紫色の花吹雪。
「……ごめんね…」
再びそう言った母が、花びらとともに消えた。
「すまなかった…本当に…すまなかった…」
父も消えた。
私の中でも何かが消えた。あんなに嫌だった両親が、そうではなくなった。
…ほんの少しでも…愛してくれていたのだと、わかったから。
でもきっと、私があの両親を愛することはないだろう。
私は歩きだした。
カラカラカラ、と音がする。
懐かしい音だった。
「……」
地面に風車が一本刺さっていた。
風車は道しるべだと聞いたことがある。風がないと風車は回らない。だから、風車は風の存在を教えてくれるんだ。
「……」
風が吹いて紫の花吹雪が舞う。
その中に私が溶けていきそうな…そんな感覚。
カラカラカラ、と風車の音がする。
「………私は…」
人生の全てが頭に流れ込んでくる。…これが、走馬灯か。
「…幸せ、だったよ……」
私は今、笑っている。
作り笑いでも何でもなく、偽りのない私の本心。
父親を殺した。母親に見捨てられた。隊士を殺した。霞柱となった。恋をした。継子を愛した。鬼になった。
全てが、幸せだった。
辛かったことも全て含めて…。
幸せだったと、言いたいんだ。
「さようなら」
紫色の、花吹雪。
そこに霞が溶けていく。
カラカラ、カラカラ、風車の音を聴きながら。
霞は揺れて、消えてしまいました。