第19章 別れ
「…本当は……わかってるんでしょう……?」
私は、ついにそれを口にした。
「あなたは私の知っている行冥じゃない。私の知っている彼は、もうとっくに死んでいるんだもの。あなたは記憶があるだけで…あの時代の行冥ではない。」
「……」
「現世の私を見ればわかる。前世と現世の霧雨は全くの別人。……なぜか、私は…ここにいるけれど。でも、もう行くところに行かなくては。」
辛い記憶も何もかもを持っていこうとしたのに。
現世の私が、それを否定した。
「…私の記憶は…現世の私に残すつもりはなかったの。けれど、現世の私は…記憶が欲しいと言った。…だからね、置いていこうかと思うの。」
「…そうか」
私はでも、と続けた。
「行冥…あなたへのこの気持ちは……私が持っていくわね。現世の私には残さないつもりよ。」
我慢できなかった。
私はまた涙をこぼしてしまった。
「だって、向こうであなたが待っているんだもの。」
私がそう言うと、行冥はそっと涙を拭いてくれた。
「……わかった…。だが私は…変わらずお前を愛している。」
「…私、死んでるわよ。」
「あぁ。生まれ変わっても、前世のあなたに恋をしたんだ。」
「……それで、いいの?」
「良いんだ。」
行冥が微笑む。私も微笑んだ。
すると、そこで…。
私は今まで感じたことのないくらいの睡魔に襲われた。
ふらり、と体が倒れる。咄嗟に行冥が支えてくれた。
「」
「…眠いわ」
「……そうか」
頬に涙が垂れる。私のじゃない。行冥の涙だ。相変わらず泣き虫なのね。ごめんなさい、私、もう拭いてあげられないわ。