第16章 餓鬼
「おい!!」
実弥の怒鳴り声にハッとする。
目の前には実弥の顔。そして、頭の下には何だかごつごつした感触…。
「ッ、何!?何!?」
「何じゃねえよ!!全然起きねえから!!!」
「へ、え?寝てた……?」
おかしいな。いつから寝てたんだろ…。
…あの私と話してたんだけど……そういうときって寝ちゃうのかな。
「たおれこむように寝だすからビビったわ…。」
…ちょっと待てよ。
この体制…。
「…人の膝の上で寝やがって「うわああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」」
思わず叫んでしまった。バッと離れた。そりゃもう、飛ぶ勢いで。
「…今更か」
「すみませんでしたああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
謝りましたよ。えぇ、土下座でね!
「気持ち良さそうに寝やがって。おら、数学まだ途中だぞ。」
「うぅ…ごめんねぇ…」
再び教科書と向き合うことになり、今度こそ最後までやりきった。
「ったく、お前昨日睡眠時間削ったんじゃねえだろうな」
「八時間寝た…んだけど」
「はぁ?それであんなにグウスカ昼寝すんのかよ」
「…え…イビキ…?」
「……何か、ボソボソ言ってたけどなァ」
実弥が教科書を片付けながら言う。
「悪い夢でも見たのか?」
「……わかんない」
あれは、夢じゃない。私が私と話しただけ。…もしも夢ならば、悪夢の類いだが。
(わかりあえないもんだなぁ…)
同じ私なのに、全然気持ちが違う。
あの私は、今の私みたいに友達がいたわけでも、優しいおばあちゃんとおじいちゃんがいたわけでもない。
全部…何もかも自分で抱え込んで…悲鳴嶼くんには喋っちゃったけど、泣くこともせず全てを笑顔に隠して…。
「……どうした」
「何でもない。けど、何だかすっごく、悲しい。」
私は気づけば泣いていた。
実弥が涙を拭ってくれた。