第1章 プロローグ
「…国永はちょっとはりきりすぎた」
私の横を通りすぎる時に大倶利伽羅が教えてくれる。
「…伽羅さん、ありがとう。お疲れ様でした」
背中に向かって声をかけると右手が少し反応したように見えた。
「じゃあここは主に任せて私は祈祷でもしてくるよ。まだ戻っていない部隊もあるからね」
「はい。お願いします」
石切丸は私を手入部屋まで送ってくれただけのようだ。
私は石切丸の祈祷は好きだ。
なんだか心が落ち着く。
ピンと空気が変わる感じがして、身が清められる気がする。
清光と並んで座り手入れが終わるのを待っていると、堀川のいた部屋の扉が開いた。
「堀川くん、おかえりなさい」
立ち上がった私に、堀川はガバッと音を立てて抱きついてきた。
「ごめんなさい主さん。誉とったら主さんとキスできるのかなって頑張ったんだけど…」
「…誉とっても出来ないよ」
堀川の言葉に清光がぼそりと返した。
「そうなんですか?鶴丸さんの言い方だとそんな風に聞こえたので、ちょっと僕と兼さんはりきりすぎちゃいました」
「もう大丈夫?」
「はい!すっかり」
少し身体を離して全身を見せてくれる。
「お疲れ様でした。ありがとう」
安心してつい笑顔になってしまった私に、
「っっ主さん!!」
もう一度堀川が抱きついてくる。
「もぅっ!堀川やめてよ!主は俺のなの!」
強い力の堀川を更に強い力で引き剥がそうとする清光。
「清光さんだけの主さんじゃないでしょ?」
「堀川、くん、苦し…」
「わぁぁぁ、ごめんなさいごめんなさい」
慌てて私を離してくれた。
「うっさいぞ、何騒いでんだよ」
「兼さん!!」
今度は和泉守の手入れが終わったようだ。
「おー、主。ただいま」
「おかえりなさい。お迎えできなくてごめん」
いつもなら玄関まで迎えに行っているのに今日はそれがなかったからみんな手入れ部屋の前で待っていてくれたんだろう。
「そうですよ。何かあったんですか?」
「…のぼせて寝込んでた」
「俺が畑で主泥まみれにしちゃってさ。畑当番のみんなと風呂入ってたらつい長風呂になっちゃったみたいで」
ごめんなさい、と頭を下げた私と清光に、
「なんですか、それ!僕いないのに?僕たちとだけだって約束だったじゃないですか、清光さん!!」
堀川が食ってかかってきた。