第3章 信長様が欲しい。
『──何を舐めたんだ?』
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昼に差し掛かった頃、この天守へ駆けてくる足音がした。名乗りもせず襖を開け入って来たのは美歩だ。後ろ手で締めると、襖の前で座り込んだ。
書状をしたためていた所へ、突然不行儀に現れた美歩は、息を切らしている。襖の前にへたり込む女を 筆を止め見ていたが、美歩は荒い呼吸をしながら俺を見つめるばかりで言葉を発さない。
この娘のやる事なす事 毎回理解に苦しむ。意味がわからん。ものを言わず目で訴えて来るが状況が読めん。口が聞けなくなったかと少々呆れてこちらから聞いてやった。
「 何事だ?」
「…私っ ………」
「私っ…死ぬかもしれない……」
「…は?」
……………
聞けば
先ほど城下へ出掛け、市の店先で そこの店主の男から妙な物を舐めさせられたと言う。無理やり口に入れられたのかと問えば、断れず自ら口にしたのだとか……
馬鹿めっ。
「妙な物とは
───何を舐めたんだ?」
「シロップのような……ハァ… ハァ…
……甘い、蜜のようなもの…です…」
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