第6章 衝動…?
しばらくそうしていたが、どちらからともなく身体を離した。
いつもよりかなり至近距離で、まだほのかに赤い顔で自分を見上げる彼女を一目見て、「お腹すいたね」と微笑んだ。
オレが隠してきていた想いは、留まる場所を選ぶことなく、再びオレによって隠された。
まだ言えない。
まだ言わない。
ただ、どういう心境だったのかは分からないが、とにかくさきが一時でも自分を望んでくれたことがたまらなく嬉しかった。
一度目は、何かの魔が差したのかと思った。
でも彼女は、二度も自分に手を伸ばしてきた。
本能で動いていたところ急に我に返ったのか、突然動きを止めて、真っ赤に顔を染めあげて、ぎゅっと手を握りしめ口元を隠す女性らしい姿は、なんとも言えず可愛らしくて...気付いた時には、強く強くさきを抱きしめていた。
あぁ、オレはこの子が好きだ...と自分の気持ちを再確認しながら、「可愛すぎる」と呟いて。
でも、オレにはまだやらなければならないことがある。
それは、さきにも。
もう少しだけこの気持ちには蓋をしよう。
ポスッとさきの頭に手を乗せてやる。
「今日はさきが好きな秋刀魚を焼いたよ。 わざわざお前を運んだ後買いに行ったんだ。感謝してほしーね」
と、いつもの様に話を続ける。
すると
『秋刀魚が好きなのはカカシのほうやろっ! “たーまーたーま” 好物が被ってたのっ』
いつもの関西弁で明るい声が返ってきた。
「わ、可愛くないねぇ。 さっきまでのさきちゃん、すっごく可愛かったのになーー.......痛ぁっっ!!!!」
『からかうなアホぉ!』と、怒りと照れでまた顔を赤く染めて、オレが教え込んだ体術で、結構本気で殴ってきた。
(うん、いい拳だ。流石、オレの生徒だね。)
オレの心は暖かかった。