第58章 好き
男は一瞬ぽかんとしたあとに、クスリと花がほころぶように笑って言った。
「…何故ってさきさん、知らないかもしれないですけど、里では結構有名なんですよ?」
『…え?』
「こんな短期間の間に下忍から特別上忍になったんですから、さきさんのことは、勿論皆知ってます。
それに彩火師の異名も、前回の中忍試験で以前よりもっと拡がりましたよね?
あなたは任務に修行にいつも一生懸命で、何と言ってもこんな感じですから…女性として興味を持つ人だって出て来てる訳ですよ。
でも、いつもカカシさんといるから……」
―――――― いや、なんだそれ。
初めて聞いた話だ。
さきはすっかり面食らってしまい、パチパチと瞬きを繰り返した。
それなら、幾らでも自分よりも美人で名の通った努力家のくノ一は沢山いる。
こんな忍の経験の浅すぎる私なんかに構うくらいなら他を当たればいいじゃない。
…というか、それなら誰か一人でも私に言い寄って来るくらいしてくれないと、そんなの分かるわけないじゃない…とも思うけれども。
さきは色んな感情を飲み込んで、代わりに細く息を吐いた。
『…私は別に有名になりたいとも、モテたいとも思ってません。気にかけてくれるのは嬉しいですけど…
それに、私はカカシの部下ですよ? いつも一緒にいて当たり前でしょう?』
さきのその言葉に、男はすかさず問いかけた。
「なら、仕事というだけで、さきさんはカカシさんのことを別に好きだと思ってるわけではないんですね?」