第48章 "LOVE" is ...
「私も夫(カイザ)への気持ちが全くわからなかった時期もあったな。 今では凄く愛おしいけど。
彼がいなくなってしまった今でもね。」
ツナミさんはどこか遠い場所を見つめるようにして微笑んだ。
『…あの…良かったら聞いてもいいですか...?』
恐るおそる、さきはツナミさんに尋ねた。
ツナミさんはコクリと小さく頷いて、そしてぽつりぽつりと話を続けた。
「さっきお父さんも話してたわよね? 私には前にも夫がいたって…イナリの最初の父親よ。
死別したの。あの子が物心着く前に。 …とても辛かった。 何度も生きることに挫けかけたわ。」
さきはツナミさんの横顔をじっと見つめ、静かに話を聞いた。
「何度も心が折れそうになって…けど、あの子とお父さんがいるから、私は強くいられたの。 でも、夫に対する愛情や寂しさは、どこへ向けていいのか、どうすればその苦しみから楽になれるのか分からなかった。 他の人を愛することなんて出来ないし、決して許されない…そう思ってた。
…今から三年前ね…夫…カイザに出会ったのは。 最初はイナリの面倒を見てくれるいい人だな~と思ったのよ。 でもいつからかそれは愛情に変わっていった。
私は彼のおかげで彼を愛することができたの。 今でも前の夫のことは忘れられないし、とても愛してる。 でも同じように、カイザのことも心から愛してるの。
その彼も亡くしちゃったけどね…けど、今の私にはイナリっていう希望、護りたいものがあるから。 …母は強しってやつかな」
さきは、キュッと心が締め付けられるような気がした。
彼女も今、ある思いと思いの狭間にいるのだ。
『…あの…カイザさんに対する恋愛感情って、いつからどうやって気づけたんですか?
…愛するって……どういうことですか?』
さきはそれがたまらなく不思議で、彼女の今の苦しみのひとつだった。