第20章 輪廻祭とクリスマス
「クリスマス? 何それ、初めて聞いたけど」
片眉を上げ、小首を傾げる銀髪の男は、細身の長身を壁に預け、片手にはあの怪しい本を携えている。
『あー...やっぱり無いんやね、“こっち”には...』
さきは残念そうに笑った。
ソファーに腰を掛けた時、ふと目に入った師走のカレンダーに、慣れ親しんだイベントが書かれていないことが気になった。
そこでカカシに『クリスマスを知っているか』と尋ねると、目の前の彼は、聞いたことも無い妙な単語に、見開いた目を数回ぱちぱちと瞬かせて首をこてんと傾けた。
この世界は、殆どが元いた世界とは変わらない...しかし、時たまこの様に不意をついて来る。
「で、クリスマスって?」
『クリスマスって言うのはね...』
さきはそこまで口にして言葉に詰まった。
(...そもそもクリスマスってキリストの生誕祭だよね? ってことはキリストが誰なのかを説明しなければならなくて、そうなると宗教が絡んできて...えっと、えっと...)
と、どんどん難しい方向に考えが向いてしまった。
「さき?」
『あ、えっと...そうやねぇ... ま、簡単に言うと年末の催事のひとつかな。
12月24日と25日は、クリスマスイヴ、クリスマスと言って、家族や恋人なんかの大切な人とチキンとかケーキとかの御馳走を食べて、楽しい時間を過ごす日なの。』
幼い子に説明するように、なるべく簡単に伝える。
「へぇ...誕生日みたいだな」
『そうやね。でも少し違うかなぁ。 いい子にしてると、24日の夜中に、サンタさんが家の煙突を降りてきて、クリスマスプレゼントを置いていくの。 朝目覚めると、みんな一番にその在処を探すんよ...』
自分がまだ幼かった頃を思い出し、脳裏に浮かぶその光景に柔らかく目を細めていると、そんな素敵な夢の世界をブルドーザーか何かで押し崩すような、あまりにも現実的な言葉が返ってきた。
「サンタさんって誰なの? 煙突が付いてる家なんて限られてるでしょ... ていうか夜に家に侵入してくるとか危なすぎじゃない。 ちゃんと戸締りしてるのそれ?」
『あのねぇ...』
さきは思わず呆れた溜息を大きく吐き、げんなりと肩を落とした。