第12章 欲しくないもの
今年の冬は寒く、雪が何度もチラつく。
今日もちょうど昼過ぎ頃から雪が静かに降り続いていた。
サスケは、さぁ今日はなんの修行をしようか...と考えながら自宅へ帰るべくアカデミーの門をくぐった。
『サスケくんっ』
少し離れたところから、最近聞きなれた声がした。
その方向に視線をやると、そこにはさきが立っていた。
『ごめんね急に来て。 傘持ってきた。ま、いらんって言うやろうけど』
さきはふっくらとした唇から白い息を吐きながら近寄り、サスケに傘を渡す。
そんな彼女の頬や鼻はほんのりと赤みを帯びていた。
(そんなことのためにわざわざここでじっと待ってたのか。)
サスケは内心、悪いな...と思いつつも、返事をすることなくその傘を受け取り、「行くぞ」とだけ声をかけた。
すると、
『あっ待って、これも』
ふわりと何かが目の前を掠めた。
それは、小さくうちはの家紋が入った紫色の手編みのマフラーだった。
『はい、これ。ちょうど完成したから』
「え...」
その時、サスケとさきのことを目撃した<サスケファン>の女子達が悲鳴のような甲高い声を上げた。
...サスケくんがプレゼント貰ってる!...
...あれ誰?!サスケくんは年上好きなの?!...
...キャー!ギャーー...
『...ふ~ん...アンタモテるんや』
それを横目にさきがニヤッと不敵な笑みを浮かべる。
サスケは否定しようとしたが辺りはギャーギャーと喚く女子だらけ。 迷惑なことこの上ない。
その声にイライラしながら、サスケはそこから早足で立ち去ろうとするが、さきが後ろから着いてくるばかりに、遠くからまだ煩い声が耳に届く。
自分の背後からその原因の女(さき)がまだ何か言っているが、もういい知らん。
「ついてくるな。」
『なんでよ冷たい。ね、それ似合ってるよ』
「煩い黙れ」
鬱陶しいことこの上なかったが、そのマフラーはとても暖かく、サスケは口元をそっとマフラーに埋めた。
(これでアイツに表情を見られることはない)
...ほんの少しだけ上がる口角。
「ふん...やっぱりこんな姉は欲しくない...」