第9章 Drunk Sweetie
「んーこのペースだとあと三、四十分くらいは歩くけど」
『私はいーよ?それでも...』
「ダメでしょ。雪降ってるし。 お前に体調崩されでもしたら誰がみるの」
『それは...カカシがいてくれるやろ?』
「それはいいけど明日から修行したいんじゃなかったの? それにそっちのが困るんだけど、オレ。」
『う...そうよな......』
「早く帰って寝た方がいいでしょ?」
『...うん......』
「...で?どうして欲しい?」
(あぁホント性格悪いねオレって。)
敢えてニコリともせず、無表情でただ彼女の顔を見下ろすカカシは、握っていた手を離して彼女の答えを待った。
誘導するように言葉を使って、自分の願望のために彼女を“利用”する......そんな卑怯な大人を演じる。
『......ん。』
すると、言葉にするのはやっぱり照れるのか、さきは自身の両腕をカカシの方に伸ばして『運んでくれ』と表現した。
軽く二十センチは身長差がある二人。
健気に手を伸ばして自分を見上げて困っているさきの顔が可愛くて、カカシの押さえ込んでいる彼女への気持ちは、ふつふつと湧き上がってゆく。
もっと自分に困って欲しくて...
「よく出来ました」
カカシはそう微笑んで力無い彼女を横抱きに抱えた。
『ちょっカカシ!これは流石に恥ずかしいっ』
「おんぶしてって言わなかったでしょ?自己責任。」
『おっ...おんぶして!』
「だーめ、もう遅い。 誰も見てないよオレたちのことなんか。」
『カカシがみてるよっ...』
「......そりゃ見るでしょ」
『もー......見ないで...』
酒のせいなのか、恥ずかしさのせいなのか...将又どちらのせいでもあるのか...
赤く染まる顔を両手で覆い、目元だけ指の間から覗かせ、自分の腕の中でこちらを見つめるさきは、たまらなく可愛いかった。
「ハハ 可愛い。さき」
カカシはそう彼女の上から言葉を落とし、落とさぬようにしっかりと抱き抱えて、しんしんと降る雪の中、宿へ向かった。