第1章 咲き初め
事実を知っているのは蟲柱様、風柱様。他、数名の蝶屋敷の看護師。特異の例として事実だけは御館様も存じて下さっているが、万が一を考え御目通りは叶っていない。いや、柱の方々と診察と言う意味であっても個空間に閉じ込められているだけで、緊張で逃げ出したいのだから寧ろ有難い。
混乱を避ける為に、斯様な事実は柱の間でのみ知られ、極力個室から出ない事で術の収まりを待つ、筈だった。
「 だァから、俺の屋敷なら人が来ねェし、雑用の隠しか居ねェンだから、都合が良いだろ。 」
「 男の貴方の傍が危ないと言っているんです。 」
「 あ゛?!ンな阿呆みてェな真似するかよ! 」
「 なら、彼女を追いかけ回すのを止めて下さい。 」
そして、冒頭の鬼ごっこの話に戻る。診察室は実に賑やかな騒動を繰り広げていた。
風柱様が容態について黙って聞いていたかと思えば、馬鹿馬鹿しいと一蹴して見せ、然し、俺の屋敷で引き取ると言う考えを変えていないらしく蟲柱様と口論。平行線のその末、無理矢理にでもと伸びてきた手を蟲柱様が阻止し、壁際へと逃げた私の行動でより苛立たせてしまったのか、眼光だけで殺されてしまいそうな程、不機嫌を滲ませる風柱様。
元は聡明な方。ゆっくりと息を吐き出すと、響く舌打ちに思わず身が竦む。が、それを最後に鬼ごっこが終了した。
「 あ、あの、お気持ち、とても嬉しいです。私、——— 」