第1章 咲き初め
遡る事、半刻前。
最近、この森に、鬼が出没するとの報告を受け、指令を受けた数名と共に任務を預かった。
幾ら質が悪いと罵られていたとしても、新米と言う訳ではない。数字を持つ、持っていた、鬼でなければある程度は通用する。
命を繋ぎ止める紙一重の日常に少しの慢心があったのだろうか。女、と言うだけで男より劣る筋力を補う為に、蟲柱様のような敏捷性と、恋柱様のような柔軟性、そして、嘗ての、花柱様のような巧緻性を身につける為に、鍛錬も怠らず、励んできたのだが。過去を悔いたところでこの現状が全てだろう。
柱が来るまでの辛抱だと、拮抗する戦場は、緊迫した空気と張り詰める緊張。
最大の難点は、未だ鬼の血鬼術の全容が分からない事。そして、一つの誤算としては、聞いていた鬼の数よりも多かった事。
群れない筈の鬼が群れを成し、恐らく他の鬼を吸収して大きくなったと思われる一匹の為に文字通り身を削る。鬼は、鬼を殺せない。であれば、鬼自らが自害と言う形を取る事で、食肉と化す。それでも、鬼の数が一向に減らないのは、吸収した傍から、新たな鬼が産み落とされるから。 ———— 見るに堪えないおぞましい光景だった。
気持ち悪い、気持ち悪い、きもちわるい。
全身が嫌悪感を訴え、じんわりと脂汗が滲み出る。
逃げ出さないのは、最早、鬼を滅する他に生きる意味なぞ有りはしないから。そんな、強がり。
剣士には成り切れなかった一人のひととしての感情が身を震わせ、足を地へと縫い付ける。
柱の方々なら、きっと。華麗に一刀両断して、この場を支配する死線を断ち切ってくれるのだろう。と、そんな他力本願な弱音に、ふるふる、と頭を左右に揺らす。
だめ、だめ。救えるものが未だこの手にあるのなら、私が、何とかしないと。
呼吸と整え、姿勢を低く。
いつの間にか引けていた腰を正して、戦意を手繰り寄せる。いつ、死んでも良いと思っていたのに、生きたい欲求が残っていたことに何だか安心感を覚え、場違いな笑みに体が緩む。
そんな気の緩みを感じ取ったのか、親玉と見られる鬼が此方に二つの目を向けた。