第4章 指南
銃の振動が呼び起こすのが、死への恐れだけとは限らない。
圧倒的な力は、血の沸き立つような興奮を連れてくる。
そしてそれは、いつしかその力を自分のものと過信させ、その力に自分さえ飲みこまれていく
やがて、それに自分が滅ぼされることになるのだ
何より恐ろしいのは敵ではなく、己自身……それを知る兵がどれほどいることか。
『光秀さんは……こんな恐ろしい思いを、いつも……?』
茜に言われた、あの一言を光秀は忘れられなかった。
(本当にあいつは、思いがけないことばかり言う)
長い睫毛を伏せると、落馬仕掛けた茜を抱きとめた重みを思い出す。
(恨まれようとも、この師弟ごっこ、いっそう本腰を入れることとしよう。お前がどう思おうが、俺は、お前を決して死なせたくなくなった)