第4章 指南
「はぁ……はぁ……っ」
(追ってこない……。逃げ切れたかな。こんな…、逃げ出すなんて、高校生の時以来かも…っ…)
胸に手を当て呼吸を整えながらも、あまりに大人気ない自分の振る舞いに笑いがこみ上げる。
置いてきた光秀さんを想像して、さらに一人、笑いをこらえていると、前方から足音が近づいてくる。
(!? まさか……!)
「まったく、手のかかる弟子だ」
「どうしてここに……!」
「先回りして逃げ道を塞いでおくのは、兵法の基本だろう?しかし、まさかお前がそんな振る舞いをするとは意外だったぞ。」
(っ……どこまで行っても、この人の手のひらの上なの……?)
「戻るぞ。馬が待ちくたびれている」
「嫌です……っ」
「言うことを聞かない駄々っ子は、お仕置きあるのみだ」
「え? わ……!?」
抵抗も虚しく、片腕で無造作に担ぎ上げられる。
下されたのは、馬の鞍の上だった。
(……! た、高い……!)
「城を一周するまで戻って来なくていいぞ、こ茜。–––行け」
「きゃ……!?」
光秀さんに尻を叩かれた馬が、いなないて駆け出した。