第4章 指南
(この馬、かなり大きいし、もし振り落とされたら……っ)
テレビで観たことのある、落馬シーンを思い出す。
自分が同じ目に合うかも…
と、想像するだけで、背中を冷汗が伝い落ちる。
「光秀さん、私の身体能力には限度というものがあるんです……!」
「自分で自分の可能性を狭めるのは感心しないぞ」
「そういう話はしてません! そもそも光秀さんは私を監視できればいいんでしょう? 素人の私に鉄砲の扱いや乗馬を教え込むのに、これほど労力をかける必要はないんじゃ……っ」
「必要はないが、お前をいじめるのが思いのほか楽しくてな」
(そんな理由で訓練を……!?光秀さん…相当のサディストなんじゃ?)
「まあ、そう力むな、馬が怯える。自分が行きたい方向をはっきり示せば自然と応えてくれる。しがみついたり、大声をあげたりすることもやめておけ。馬の嫌がることをしてはいけない。安心しろ。この栗毛はお前の数倍は賢い」
励ますように肩を叩かれたけれど、もう我慢の限界だ。
「ちょ……ちょっと…、トイ…厠へ行ってもいいですか?」
「…………」
私は光秀さんの手を押しやり、後退りすると振り返らずに一気に駆け出した。