第4章 指南
「見事な突進だったぞ、茜」
「どうして避けるんですか……っ?」
「護身術では、相手の攻撃を真っ向から受けずにいなすことも重要だ。またひとつ賢くなったな」
「それならそうとはじめに言ってください……!」
「間合いをつめようとしたことだけは、褒めてやろう。」
私の頭をひと撫でする光秀さん。
その手はやっぱり、優しい。
(またこの人のペースだ……。どうしても、光秀さんのペースに乗せられちゃう…)
それから–––
「戦に用いる武具についても、知識をひと通り頭に叩き込んでもらうぞ。これが先日の戦で使った種子島だ。持ってみるか?」
「っ、はい……」
こわごわ受け取ると、硝煙のかすかな匂いが鼻につき、両手がズンと沈んだ。
「こんなに、重いんですね……」
(光秀さんはこれを軽々使いこなしてた。細身に見えるのに…。身体を鍛えてるんだ)
「丁重に扱うように。ひとつ誤れば自分の手が吹っ飛ぶ愉快な代物だからな」
(?!)
「全然愉快じゃないんですけど……」
それから、光秀さんによる乱世の生き方指南は、日に日に過激さを増していき……
「今日は、先日手入れした火縄銃の撃ち方を覚えてもらう」
(まさかとは思ったけど、本気で銃の撃ち方まで私に教えるつもりだったんだ……!)
「木の幹に的をかけておいた。しっかりと見据えろ。こら、目をつむるな」
「あの、光秀さん、こんなことまで覚える必要はないんじゃ……!」
「覚えて無駄になることはこの世にさほどない。わかったら口を閉じて狙いを定めろ」
震える指を引き金にかけると、否応なしに戦場の記憶がよみがえってくる。
(あの時と同じ、火薬の匂い……)